Good News and Companies代表の崔真淑氏とiYell株式会社代表取締役社長兼CEOの窪田光洋が対談。キャッシュレス化が進むと、私たちの生活にどのような影響が出るのか。信用データが蓄積されれば、住宅ローンをもっと簡単に提供できるようになるのか。貨幣はなくなるのか。究極のキャッシュレスとは何なのかについて、両者が意見を交わしました。
キャッシュレス社会ついてどう思っていますか?
崔
窪田さんはキャッシュレス社会になってほしいですか?
窪田
そうですね、なってほしいと思っていますよ。去年中国の深圳(シンセン。中国南東部に位置する近代的な都市)にいったときに、屋台でフルーツを買うにもキャッシュレスだったのが驚きでした。ちょっとした買い物をするにも古いクレジットカードが使えず、2キロ先のATMまで現金を下ろしに行ったほどですから。旅行者からしたら中国の電子決済AlipayやWeChatPayがないと買い物ができないのは不便だけれど、現地の人からしたらとても便利な社会になっているんだと思い知らされましたね。
キャッシュレスになるとレジを置かなくていいし、そもそもの現金がないから盗難にあうこともありません。その部分だけ切り取ってみるととても効率のいいビジネスだと思います。またキャッシュレス社会になることで個人事業主もより気軽にビジネスを始められるので、良い点はたくさんありますね。
崔さんはどう思いますか?
崔
私もキャッシュレス社会になってほしいと思っています。
利用者としてもビジネス側の立場としても、キャッシュレス社会になると便利なことが多いですよね。最近とある経済系新聞で、某飲食チェーン店が人手が足りないことを理由に、完全に現金を使えないお店を増やしていくという記事がありました。
私の感覚では人件費だけでなく、人にレジや現金を任せるのは盗難のリスクが高いという感覚が理解できます。
そういった意味でも、窪田さんと同様にビジネスをやる側としても、キャッシュレス化が浸透することで得られるというメリットは大きいと思います。
窪田
飲食店で言うと、キャッシュレスが進むと店長や責任者がいらなくなりますよね。そうすればアルバイト複数名で成立してしまう仕組みだって作ることができるから、人手不足で悩むこともないし、出店もしやすくなる。責任者を育てる必要もなくなるし、キャッシュレスという技術を使って、今よりもビジネスがしやすくなるかもって思います。
崔
確かにそうですね。窪田さんの会社でもキャッシュレスに関する事業をしているのですか?
窪田
今のところしてないですよ。ただ最終的にはキャッシュレスを我々の信用データにつなげたいとは思っていますね。
現金ではデータが蓄積されないけれど、キャッシュレスで買い物をすればその人のパーソナリティーや信用が蓄積されていきますよね。そうすれば住宅ローンにおいても職業や年収に左右されず、その人のパーソナリティーによって住宅ローンの審査をすることができます。(現状は、審査におけるその人の年収や勤め先等、形式的なデータの割合が高いため。)
勤続年数が長い人が信用高いって、ほんとなの?と思うし、住宅ローンにおける信用が曖昧になってきているから、キャッシュレスで蓄積されたデータを使って審査に結び付けていく方が、より正しい審査になるのではないかと考えています。
崔
日々のキャッシュレスによって蓄積されたデータを使って導き出された信用を用いて、住宅ローンの金利や審査方法をより明確にしていくということですね。
日本のキャッシュレスが遅れている理由は?
窪田
日本のキャッシュレスが進まない理由ってなんだと思いますか?
崔
私は理由が2つあると思っています。
1つは日本はATMなどの間接金融が他国よりも進んでいるということ。町中にすぐにお金が引き出せるATMがあることが、キャッシュレスを遅らせている1つの原因だと思います。
もう1つは政府の規格の作り方、整え方がもっとブラッシュアップをしても悪くないなと思うことです。EUは自動運転や環境の企画、個人情報とかも、個別の国がどうとかではなく、EU内で規格を通すことができますよね。
でも、日本は企業ごとに規格がバラバラで、各社の資源を無駄にしかねません。
とはいえ、日本は自由競争だから政府が手を入れることはできないのかもしれません。
これがキャッシュレスを遅らせている2つの要因だと考えます。
窪田
自由競争といえども規格を整えた上で競争させればいいんですけどね。
崔
イノベーションを起こさせるときの最初の規格をバラバラにするんじゃなくて、こうしましょうと決めてくれると、キャッシュレスが加速するかもしれないと思うんです。
窪田
どうして日本ってそういうところが下手なんですかね。昔から何十年も同じことをやってますもんね。色んな規格がバラバラだから、毎回規格競争になってますもんね。
崔
ほんとにそうですよね。。
窪田
とはいえ最近はPayPayとか、民間主導で少しずつ文化とか規格を作り始める動きが出始めましたよね。
崔
たしかに変わり始めましたね。去年の10月~12月までのGDPが発表されたんですけど、前の期より全然良かったんですよ。で、なにがあった?と思ったんですけど、、、
窪田
PayPayですか?
崔
そう!!もちろんPayPayだけじゃないと思うんですけどね。でもそういう影響もあってGDPが伸びたんじゃないかと考えているエコノミストもいて、面白いなと思いました。
窪田
弊社にITに明るくない社員がいるのですが、その社員が「IT音痴の僕でさえ、PayPayを使っちゃいました」と報告してきて、かなり衝撃的でした。そういう意味ではITリテラシーの低いユーザーですら「使ってみようかな」と思わせるPayPayはすごいと思いましたね。それに、そういう人がPayPayを使い始めると一気にマーケットが拡大していくと思います。
崔
確かにそうですね。
キャッシュレスが進むと、生活にどのような影響が出るのか
崔
キャッシュレスが進むと、普段の生活にどのような影響が出ると思いますか?
窪田
消費者としては生活がとても楽になりますよね。
崔
確かに。ただし、キャッシュレスの種類にもよりますよね。クレジットカードだと日本は手数料が高いから…お店側からしたらあまり良くない気がします。
そういう意味ではQRコードが進んだ方がお店としては良いのかなって。でもそうすると消費者はいちいちQRコードを出すのが面倒臭いということになりかねないですよね。実際、中国ではQRコードが当たり前になっているけれど、日本ではいまいち普及していないから。。。
現在普及している接触型キャッシュレス決済に慣れている人が、QR型のキャッシュレスに行くのかが不安ですね~
窪田
確かにそれはありますね!
タクシーで移動するときもクレジットカードよりもSuicaで支払う方が決済がすごく楽ですし。
消費者にとって一番楽なのがチャージのいらないQUICPayやiD、
その次に楽なのがチャージが必要だけれども携帯からでも操作が可能なSuicaやPASMO、
最後がQRコードという流れじゃないかなと思う。
崔
わかります。ただ、キャッシュレス化すると店舗は読み取り専用のマシンを置かないといけないから大変ですよね。
窪田
EdyでiDでQUICPayといったように、決済方法がたくさんあったとしても店舗側はすべて覚えていられないですもんね。
崔
そう!お店の人も「もう1回言ってください、もう1回言ってください」ってなりかねませんもんね。
窪田
数がありすぎですからね。。。
キャッシュレス社会になった時の懸念点は?
崔
キャッシュレス社会においての懸念点は、「データの管理」が怖いなということと、災害の時にどうするの?という不安ですかね。だから一番は「金塊」を持っておくのが大事なのかなとか思ったりします。
窪田さんはキャッシュレスにおけるデメリットってあると思いますか?
窪田
すべてが電子機器下に置かれるので、スマホの充電が切れた瞬間に電車に乗れなくなったり、買い物できなくなるのは怖いなと思いますね。
前、電車に乗る前は充電があったのに出るときには充電がなくなってしまい、結果として改札が出れなくなるという体験をしたことがあります。
デジタルなのかアナログなのか良くわからなかったですね(笑)
崔
たしかに充電のリスクはありますね。
窪田
キャッシュレス社会って絶対にITの傘下にしか起き得ないので、デバイス依存からは離れられなくなってしまいますよね。電源とかエネルギーとか。。。つまりインフラコストが大変なんだろうなと思うし、ATMをなくす代わりに街中に充電器があるくらいにならないと厳しいのかなと思いますね。
崔
それいいですね。
窪田
最近自販機で充電できる機械がでてきたと新聞に載っていましたね。自販機から充電器のコードがでていて、そこから充電できるらしいんです。でも買う側からしたらジュース買いづらいですよね(笑)
そんな風に充電のインフラが整ってくると、充電が切れてもどこかですぐに充電することができるから、「じゃあ、現金を持たなくてもいいね」という風になりそうですよね。でも、「充電切れたらどうしようもない、怖い」というままだとどうしても現金を持つ習慣をなくすことは難しいと思います。
崔
めっちゃわかりやすい説明ですね!キャッシュレスにしようと思ったら、ATMに代わるものをおかないと誰もキャッシュレスにしようとは思わないですもんね。
ということは、キャッシュレスにおける懸念点は既存のATMがそれに代わるようなものを置いてくれるのかということが重要になりそうですね。
窪田
そうですね。ATMがキーになるような気がします!
貨幣がなくなると思いますか?
崔
貨幣ってなくなると思いますか?
窪田
なくなると思いますよ。
今ってすでに硬貨が減ってきてるんですよね?
崔
1円玉の流通量が過去最低になっていると思います。
窪田
通例だと新しいものを作って古いものを回収する動きなのに、新しいものを作るのをやめようという動きになってきているような気がします。キャッシュレスといっても、まずはお札ではなく硬貨がキャッシュレス化されていきそうですね。硬貨って重いし。(笑)
崔
おっしゃる通り重たいし、音がうるさいし、キャッシュレスにするとしたらまずはそこから試してみようということなんでしょうね。
究極のキャッシュレスって何だろう・・・
崔
究極のキャッシュレスは。。。円という国ごとの単位ではなくて、世界共通の信用スコアリングの売買になるんじゃないですか?
現金は何が嫌かというと、変動相場制だから価値が変動することなんですよね。
世界共通になれば為替もなくなるし、現金がキャッシュレスになって、かつそれが信用スコアリングと完全にマッチしたら、変動相場とか関係なくなります。それこそが究極のキャッシュレスなのかなと思いますね。
窪田
為替がなくなるということは国自体の信用リスクが定量化されて、常に信用が変化していくって感じですよね。
崔
そうですね。つまり、信用が変化してこの国は信用が足りないから、この国には投資ができないといった判断ができるかもしれないですね。でも、そういう世界になったら金融政策とかできなくなるから、景気のコントロールができないかなという懸念はありますね。
窪田
為替が一緒だったらインフレとかデフレとかってコントロールできなくなっちゃいますもんね。
国によってはデフレが起きていて、違う国ではインフレが起きているってことだから、国ごとに差が出そうですね。。
崔
雇用に関しても国によって大きな差が出るようになると思います。窪田さんは究極のキャッシュレスって何だと思いますか?
窪田
僕はスタートに戻るのかな、と思いますね。
貨幣が生まれた理由って物品売買じゃないですか。物々交換ができなくなって貨幣が生まれたから、究極は貨幣がなくなり、世の中の人がそれぞれ物々交換できる巨大なプラットフォームみたいなものができる。そこでほしい人と売りたい人が各々に物々交換してる、みたいな感じですね。
もちろんそれは物質的な物である必要はなくて、人のスキルであったりするサービスなのかもしれませんし。
崔
窪田さん、それですよ!本当にその通りだなと思いました。現金とかいらなくなりそうですね。
窪田
僕が経済の知識を1時間講義する代わりに、そのノウハウを聞いた人は僕に野菜をくれるみたいなことが瞬間的・自動的に行われるようになったら、貨幣がいらなくなりますね。
崔
貨幣の役割って貯蓄とか価値の蓄積でもあるんですが、それも信用スコアリングでこれだけこの人は信用を貯めてきたよというものが数値化できれば、物々交換で成り立つ世界ができちゃうかもしれないですね。
窪田
そういう意味では、信用の蓄積が一番大事になってきそうですね。
Good News and Companies CEO 崔 真淑(さい ますみ)
プロフィール
1983年三重県生まれ。2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。2018年からは同大学院の博士後期課程に在籍し、資本市場活性化や企業価値向上のためのインセンティブ設計の研究を行う。
大学卒業後に「経済のスペシャリストの世界に触れたい」と、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社。アナリストとして資本市場分析に携わる。当時最年少の女性アナリストとして、NHKなどの主要メディアで経済解説者に抜擢される。債券トレーダーを経験したのち、日本の経済リテラシー向上に貢献したいとの思いから2012年に独立。
iYell株式会社 代表取締役社長兼CEO 窪田 光洋(くぼた みつひろ)
プロフィール
1984年、神奈川県生まれ。青山学院大学経営学部卒業。2007年に新卒でSBIグループのモーゲージバンク(証券化を資金調達手段とする住宅ローン専門会社)に入社。2012年SBI大学院大学にて経営学修士(MBA)を取得。その後最年少で執行役員に就任、住宅ローン商品の組成から販売、審査、債権管理等住宅ローンのすべてのフェーズにおけるトップを歴任。2016年に独立し、iYell株式会社を設立。
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