ここのところの長期金利の低下は、北朝鮮による弾道ミサイルの発射に加え6度目となる核実験そして2度目のミサイル発射により、アメリカとの武力衝突のリスクが高まっていることを反映したものです。
あるアメリカの学園ドラマ風に再現してみましょう 。
学園のマドンナ、モトコ=ヒノは北隣に住むキム家の次男のジョンから執拗なストーカー被害を受けていた…そういえば兄のジャックの姿はここしばらく見ていない。恐怖に怯えるモトコはスクールカーストの頂点にしてアメフト部キャプテンのマッチョ、ドナルドに救いを求めた。
ドナルド『おいジョン!いいがげんにしないとオレの忍耐にも限界が…』
最後まで言い終わらないうちに、ジョンは隠し持っていたピストルを上空に向けて撃った。白煙を上げて発射された弾は放物線を描いてモトコの頭上を通過し、北海道襟裳岬の東約1180キロの太平洋上に着弾した。
モトコ『キャー!』
ジョン『太って肥大した変態動物め、オレは本気ニダ』
張り詰める空気!そこに割って入ったのは日ごろから虎視眈々とボスの座を狙うウラジーミルとシュウだ。
ウラジーミル『まあまあ、二人ともピロシキ食べるっスお腹がスクとイライラするスク』
シュウ『おっと豚まんを忘れてはいけないアルよ』
ドナルド『むう、今日はこの辺にしといてやる…』
ああ、いつもの平常運転に戻るのか…クラスの空気がホッと緩んだ。その時、再びジョンのピストルが火を噴いた。弾はさらに大きな放物線を描いてモトコの頭上を通過し、飛行距離をさらに伸ばして北海道襟裳岬の東約2200キロの太平洋上に着弾した。
モトコ『……!』
ジョン『……口先だけじゃないと、分かったニダ?』
アメリカが北朝鮮への制裁案として提出していた原油の全面禁輸や資産凍結などは中国ロシアの反対にあって行われず、かなりの妥協案を含んだ制裁措置になりました。それもあって北朝鮮とアメリカの武力衝突のリスクは弱まったと言われていた矢先の2発目です。
このまま行くと北朝鮮は核ミサイルを完成させ『核保有国』になるのは時間の問題です。そうなると、さらに状況は深刻さを増すでしょう。
北朝鮮とアメリカの戦争リスクでなぜ長期金利が下がるのか?
北朝鮮とアメリカが戦争になると、日本が巻き込まれるのは必至です。これが危ないということは分かりますけど、それによって長期金利が一時はマイナスにまでなりましたよね。なんでこういうことが起こるのでしょうか?
戦争に巻き込まれると、その被害によって経済的にも大きな損失を被る危険がありますよね。なので、持っている資産を出来るだけ安全な資産に移そうとする人が増えます。安全な資産とは日本円、そして日本の国債ということです。
多くの人が日本の国債を買い求めると、債券市場での価格が上がります。少しくらい高くても買う人が居るからです。そして国債の債券価格が上がり過ぎたため、その利回りがマイナスになったという現象なんです。債券の価格と利回りは逆に動きます。
債券の価格と利回りは逆に動く
まずは以下の仕組みを理解しましょう。
✓債券の価格が上昇すると長期金利は下落する
✓債券の価格が下落すると長期金利は上昇する
金利とは利回りを言います。利回りとは投資した元本に対して投資の成果として得られる利益が年に何パーセントかという割合です。
10年国債 | |
---|---|
額面金額 | 100円 |
券面利益 | 2.0% |
この前提で3つのパターンで解説します。小学校の算数レベルの知識で理解できるような仕組みなのです。
国債の価格が100円の場合
券面利率は2%ですから、100円に対して毎年2円の利息が貰えます。10年後の満期には100円の元本が返ってきます。
100円投資して毎年2円の利益ですから、運用利回りは年2%です。
国債の価格が95円の場合
額面100円の国債が95円に値下がりしている時に買えば、毎年2円の利息を貰える上に満期で額面どおり100円で償還されます。購入価格との差額である5円が値上り(キャピタルゲイン)として手に入ります。
95円投資して毎年2.5円の利益ですから、2.5÷95で運用利回りは2.6%です。
国債の価格が105円の場合
額面100円の国債が105円に値上がりしている時に買えば、毎年2円の利息を貰えますけど、満期で返って来るのは額面の100円だけです。購入価格との差額であるマイナス5円を値下がり(キャピタルロス)として被ることになります。
105円投資して毎年1.5円の利益ですから、1.5÷105で運用利回りは1.4%です。
いかがでしょうか?債券の価格と利回りは逆方向に動いていますよね。
券面価格 | 利回り |
---|---|
95円 | 2.6% |
100円 | 2% |
105円 | 1.4% |
つまり、債券の価格が上がり続けると利回りが下がり続け、上がり過ぎると逆にマイナスになってしまうということです。実際にやってみましょう。
国債の価格が150円の場合
額面100円の国債が150円に値上がりしている時に買えば、毎年2円の利息を貰えますけど、満期で返って来るのは額面の100円だけです。購入価格との差額であるマイナス50円を値下がり(キャピタルロス)として被ることになります。
150円投資して毎年3円の損失ですから、-3÷150で運用利回りは-2.0%ということです。
債券価格 | 利回り |
---|---|
150円 | -2.0% |
利回りがマイナスになっても国債を買う人達って?
つまり、テレビのニュースで流れている長期金利というのは10年国債が幾らで取引されているか?その価格から計算した利回りなのです。長期金利がマイナスとは、国債の価格が高すぎで、その後券面の利息をもらってかつ満期に元本が償還されてもトータルで損をするということですね。
高く売れるのはいいですけど、そんな損が確定しているような価格で買う人が居るんでしょうか?
居るんですよ。
金利がマイナスということは事実として、そういう高すぎる価格で国債を買っている人が居るということです。それはデイトレーダーです。彼らは満期まで国債を持ち続けて、元本の償還を受けようなんて考えていません。
価格が安い時に買って、高く上がってから売る、その差益で儲けることを考えています。つまり、まだまだ国債の価格が上がると予想するトレーダーは、たとえ利回りがマイナスであっても買いに走ります。そして下がる前に上手に売り抜けようと考えるわけですね。
戦争のリスクを回避するために安全資産に投資する人が増えて国債の価格が上がる。そして、さらに上がるだろうというリスクを取る人によってさらに国債の価格が上がり、利回りがマイナスになってもなお、上がり続けるという現象が起こるんです。
債券市場には実に様々な思惑で投資家が参加しています。つまり利回りだけではなく、その価格だけに注目する者もいれば通貨間の為替相場などから売買する者もいます。ご紹介したのはあくまで一つの例です。
長期金利が下がるマイナスになると住宅ローンの金利はどうなるの?
基本的に住宅ローンの固定金利は長期金利と連動すると言われています。銀行が住宅ローンで我々に貸す資金は金融市場から調達しているからですね。こんな関係です。
つまり、金融市場の長期金利というのは、銀行にとって商品の仕入れ値です。仕入れ値が下がっているということは、我々への売値も下げられるということです。
住宅ローンの金利は毎月の初めに銀行が発表した金利がその月に適用されます。ですから今月9月の住宅ローンの金利は8月の終わり位までの長期金利の動向を見て銀行が決めた金利ということですね。
日付 | 北朝鮮情勢 | 長期金利の動向 |
---|---|---|
2017年8月29日 | 北朝鮮のミサイルが日本上空を通過 | 低下 |
2017年9月3日 | 6度目の核実験を強行 | 低下 |
2017年9月11日 | 妥協案含みの国連制裁決議 | 上昇 |
2017年9月15日 | 再び北朝鮮のミサイルが日本上空を通過 | 低下 |
つまり、北朝鮮のミサイル発射までの状況を前提にした長期金利を踏まえて決められたのが9月の住宅ローンの固定金利です。10月の金利はこれからの北朝鮮情勢の動向によって長期金利がどう動くのか?にかかってくるでしょう。
まとめ~これから家を買う人が行うべき対策
金融市場には、前述したように様々な利害や思惑をもった無数の投資家たちが参加しています。仮に北朝鮮とアメリカが戦争に突入した場合の円相場と長期金利の動きについては、専門家の間で見解が様々に割れています。
こうなったら必ずこうなる、というセオリー通りには行かないのが常なんですよね。例えるならイワシの群れの動きみたいなものです。大きなリスクに対して無関心かと思えば、意外性のあるセンセーショナルな出来事に対して過剰に反応することもあるんです。
わたしたちは、家の購入、または借り換えというこの一大事に不安定な情勢が重なってしまったわけですね。金融市場に参加する投資家でもないのに、こういうリスクを負わなければならない…割りを食ってる感じです。
ですから2重3重に打つ手を用意しておく必要があります。以下のように、金利が決まる仕組みの異なる商品でそれぞれ審査を通しておき、情勢の変化に応じて有利な方を選べるようにしておくことをお勧めします。
✓民間融資とフラット35
または
✓変動金利と固定金利
《次回予告》
家を買うときに「お金で損したくない人」が読む本
千日 太郎 (著) / 日本実業出版社
文:千日太郎
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