住宅ローンは金額が大きく、返済期間も長期にわたります。
その間には、家族にもさまざまな変化があるでしょう。
例えば、住宅ローンの返済中に離婚することになったら、ローン返済や物件の名義などはどうなるのでしょうか。
住宅は財産として扱われることになるので、知らないと困ることがいろいろ出てきます。
この記事では、住宅ローンの返済中に離婚する場合の注意点などについて解説します。
住宅ローン返済中に離婚するとしたら、事前に確認しておかなければならないことがあります。
それらの確認をしないまま離婚してしまうと、後で面倒なことになりかねません!
離婚について話し合いをする前に確認しておきたいことを3つ紹介します。
まず、住宅ローンの名義が誰になっているかを確認しましょう。
住宅ローンの名義人の主なパターンは、次の5つです。
1.は完全な単独債務なので、離婚しても名義人以外に返済の義務が発生することはありません。
離婚の際に問題になるのは2~5のパターンです。
それぞれについて説明していきます。
2.と3.は夫婦の一方が名義人となり、もう一方が連帯保証人となっているので「連帯保証型」と呼ばれています。
連帯保証型は、名義人が単独で返済の義務を負う契約です。
ただし、名義人が返済できなくなったときは保証人が代わりに返済義務を負うことになります。
4.は、1つの物件に対して夫婦それぞれを名義人とする契約があり「ペアローン」と呼ばれています。
例えば4000万円の借入を2000万円の借入2本に分けて、それぞれ借りていると考えるとわかりやすいでしょう。
夫婦がお互いの保証人となり、夫婦の同居が条件になっているケースが多い点が注目ポイントです。
というのも、離婚すると同居を解消するケースがほとんどだからです。
一方は家を出ることになるので、双方が住宅ローンを返済し続けられる状態でも、契約時と状況が異なるわけですから一括返済を求められる可能性があります。
5.は「連帯債務型」と呼ばれるもので、1つの住宅ローンを2人で契約する形で、主に【フラット35】で夫婦2人の収入を合算する際にととられる契約です。
連帯債務とは、主債務者と連帯債務者が同等の返済義務を負う契約で、それぞれの負担割合があらかじめ決まっておらず、どちらか一方のみが返済してもよいのです。
融資した金融機関は、主債務者と連帯債務者のどちらに返済を求めても構わないため、自分が主債務者でなくても負債が全部のしかかってくることを想定しなくてはなりません。
「自分は主債務者ではないので、先に主債務者の方に返済を求めてほしい」と言うことができない厄介なケースです。
離婚する際には、財産分与をする必要があります。
正しく財産分与するためには、住宅ローンがいくら残っているのかも確認しなければなりません。
婚姻期間中に夫婦が共同で築いた財産は、ローンの返済者ではなく、夫婦の共有財産として扱われます。
預貯金や車、不動産などプラスの財産だけでなく、住宅ローンのようなマイナスの財産も分与の対象です。
そのため、原則住宅ローン返済の負担も公平に分けるべきものだといえます。
住宅ローンを返済している途中でも、対象物件を売却することは可能です。
離婚した場合、家の取扱いについて考えることになる為、売却したらいくらになるのか住宅ローン残高と併せてあらかじめ確認しておくと良いでしょう。
住宅ローンの名義人や住宅ローンの残高、家を売ったらいくらになるかなどがわかったら、離婚後の家の扱いについて話し合いましょう。
選択肢は「家を売却する」「夫婦のどちらかが住み続ける」のいずれかになるはずです。
各選択肢について詳しく解説します。
売却については、アンダーローンの場合とオーバーローンの場合の2パターンそれぞれで考える必要があります。
アンダーローンは、売却額がローン残高を上回る状態のことです。
家の売却価格が住宅ローン残高を上回るため利益が出ます。
ローン残高を一括返済できるうえに、手元に利益が残れば財産分与に入れそれぞれ分けることもできるので、後はどのように分配するかを話し合って決めるだけです。
オーバーローンは、アンダーローンの逆で、ローン残高よりも売却額が下回る状態です。
家を売っても、ローンが残ってしまうため、残債を払い続ける必要があります。
もしくは、ローン残高から売却額を引いた負債分を預貯金などで繰上返済を行う方法もあります。
オーバーローンで問題となるのは、どちらにも支払う資力がない場合です。
ローンの返済ができないので、家を任意売却することになります。
任意売却というのは、家や土地の所有者が自ら売却する方法で、住宅ローンが完済できなくても抵当権を外すことが可能ですので、自己資金なしで売却できるのです!
強制的に売却されてしまう「競売」とは違い、任意売却は、市場価格に近い金額で売れる可能性があります。
しかし任意売却する場合は、抵当権を外すわけですから、住宅ローンを契約している金融機関の合意が必要です。
住宅ローンの返済中に無断で任意売却した場合は、ローンの滞納として扱われ、信用情報に登録されてしまうリスクがあります。
オーバーローンになってしまう場合は、自分たちのどちらかが住み続けるという形で決着することも少なくありません。
家など不動産の名義人と住宅ローンの名義人が同じ場合、そのままその物件に住み続けながら、ローンを払い続けるのは自然な流れです。
金融機関にも認められやすいでしょう。
ただし、住宅ローンや不動産の名義人と異なる人が、住む場合は注意しなくてはなりません。
例えば住宅ローンと不動産の名義が夫のみのまま離婚して、家には別れた妻と子どもが住み続けるようなケースです。
夫がローン完済まで支払いを続ければ問題ありませんが、返済が途中で滞った場合、金融機関が抵当権を実行する可能性があります。
住んでいる家が競売にかけられると厄介ですので、そうならないように、対策を考えておきましょう。
住宅ローンの名義人は、金融機関とローンの契約を結んだ人です。
契約者の収入や勤務先などをもとに審査を行い、その結果に基づいてお金を用立てています。
そのため、住宅ローンは基本的に名義変更が認められていません。
例えば、子どもが就職して安定した収入を得られるようになったから、ローンの名義人を親から子に移すというようなケースは認められないのです。
それが離婚に伴うものだとしても原則として変更できません。
しかし離婚した場合は、どうしても名義変更が必要な場合が出てくるでしょう。
例えば、夫婦がそれぞれ住宅ローンを組み、お互いに連帯保証人になるペアローンの場合です。
どちらか一方が住み続けるなら、もう一方は一括返済するなどして、一方の債務だけを残すようにすることも考えられます。
どうしても名義変更が必要な場合は、住宅ローンを借り換えて、元のローンを一括で全額返済するという方法が可能です。
ただし、対象物件には借り換えをする名義人が住み、対象物件の所有権を借り換えをする人の単独名義にすることなどの条件があります。
また、離婚協議書など、離婚による名義変更である旨を証明することが求められることもあるので注意が必要です。
負担付贈与という方法もあります。
住宅ローンの負担付きで家を贈与するという意味だと捉えればわかりやすいでしょう。
例えば、夫名義の家と夫名義の住宅ローン債務を一緒に妻に贈与するという形です。
具体的な流れとしては、以下の通りです。
手続きが完了すると、夫は債務を免責されることとなり、例え妻が引き継いだローンの返済ができなくなったとしても、元の債務者であった夫に影響が及ぶことはありません。
ここで気を付けなければならないのは、金融機関が無条件で免責的債務引受を認めるわけではないという点です。
金融機関の審査があるので、いくら夫婦間で合意していても認められない可能性があります。
妻が専業主婦やパート勤めでも、養育費や慰謝料が年収に相当すると認められれば負担付贈与が成立しますが、無収入の場合は金融機関に承認してもらえないでしょう。
また、養育費や慰謝料についての取り決めの記載があるか確認するために協議離婚書など提出が求められます。
このように、離婚する場合には例外的に名義変更が認められる場合があります。
しかし、求められる条件をすべて満たさなければなりません。
また住宅ローン返済中の不動産の名義変更に関しては、元の住宅ローン契約書の中に、「金融機関に無断で名義変更した場合は残債務の一括返済を求める」等の条件が書かれている可能性もあります。
それを見落として、勝手に名義変更を行ってしまうと、残債の一括返済を求められ、新たに大きな負債を抱えることになりかねません。
実行する前に今一度契約書に目を通し、名義変更や免責的債務引受の条件などが記載されていないか、確認しておきましょう。
住宅ローン返済中に離婚するときの注意点は、ローンの残高と家の売却額によって、財産分与の中身がプラスになるかマイナスになるか変わってくるという点です。
住宅ローンの残額がまだ大きいうちに離婚すると、オーバーローンによって家が財産分与の対象から外れる可能性があります。
相手のローンを引き継ぎたくても、自分に収入がなければ審査に通らないということもあるでしょう。
離婚だから夫婦間の話し合いで合意すれば何とかなるというわけではありません。
間に金融機関が入るので、その辺りをきちんと理解しておくことが大切です。
住宅ローンの返済中に離婚すると影響は借入している金融機関にも及びます。
離婚後は家に誰が住むのか、返済は誰がするのかを決めずに、離婚を先にしてしまうと、最悪の場合、自分たちの意思に反して家がどちらのものでもなくなってしまうかもしれません。
そうならないように、返済中の離婚における注意事項を確認し、しっかり話し合うようにしましょう。
起きてしまったことは仕方がないのですが、何ごとも「その後の対応」というのが非常に大事になってきます。
特に住宅に関しては、人生で一番高い買い物となりますので、しっかりと対処しなければなりません。
契約書の内容を改めて金融機関に説明してもらい、現状を相談することも大事です。
またどうしても感情的になってしまい、夫婦での話し合いが難しい状態であれば、弁護士に依頼することも有効な手段の一つです。
ここで「面倒だな」と思って適当に片付けてしまうと、場合によっては別れた配偶者の債務を払わされることになったり、突然住んでる家を追い出されるなど二次的に大変な事態になる可能性もありますので、特に自宅に関しては、しっかりと対処するようにしましょう!
株式会社フィナンシャルクリエイト
FP1級技能士・CFP認定者
鈴木 厚
不動産を活用した資産運用のコンサルティングを経験し、その後大手保険代理店で管理職を務める。
現在は独立系ファイナンシャルアドバイザーであるIFAとなり、ウェルスマネジメントとリスクマネジメントの両方の観点からコンサルティングを行う、お金の専門家として活動中。
⇒Youtube「お金の教育チャンネル」にて情報を発信
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