同じ会社に長年勤めた人は、会社の就業規則をもとに、所定の退職金を支給してもらえます。
退職金は第2の人生を楽しむため、あるいは転職するまでのつなぎに活用できる大切な資金ですから、一体どのくらいもらえるのか、ほかの人はいくらくらいもらっているのかなど、気になるところですよね。
そこで今回は、退職金の基本的な仕組みや平均相場、そしてパターン別の簡単な計算方法を説明します。
退職金とは、その会社に勤めた人が退職する際に支払われる賃金のことです。
退職というと定年退職のイメージがありますが、退職金が支給されるか否かは勤続年数によって決まるため、転職などに伴って退職した場合でも退職金を受け取れる場合があります。
ただ、細かい条件については企業ごとに異なるため、くわしく知りたい場合は会社の就業規則を調べる必要があるでしょう。
終身雇用を基本としている日本では、永年勤続を推奨するという意味もあり、退職金制度を設けている企業が大半を占めています。
そのため、ある程度勤めれば必ず退職金がもらえると考えている方も多いですが、実は退職金制度が法律によって定められているのは公務員だけです。
正確にいうと、国家公務員は国家公務員退職手当法にて、地方公務員は各地方公共団体の条例によって「退職手当」と呼ばれる退職金が支給される仕組みになっています。
一方、民間企業の場合は退職金は法で定められる制度ではないため、退職金制度を導入するかどうかは企業に一任されます。
たとえ退職金制度を導入していなくても違法ではないので、企業の中には退職金を支給しないところもあるようです。
厚生労働省がまとめた平成30年就労条件総合調査によると、国内において退職金制度を導入している企業は80.5%にのぼるそうです。
ただその内訳をみると、企業規模や業種によって退職金制度の有無に違いがあることがわかります。
以下に企業規模別と、主な産業別に退職金制度の導入割合をまとめてみました。
企業規模 | 退職金制度の導入割合 |
1,000人以上 | 92.3% |
300~999人 | 91.8% |
100~299人 | 84.9% |
30~99人 | 77.6% |
産業 | 退職金制度の導入割合 |
建設業 | 87.5% |
製造業 | 88.4% |
情報通信業 | 86.1% |
運輸業、郵便業 | 71.3% |
卸売業、小売業 | 78.1% |
生活関連サービス業、娯楽業 | 65.3% |
[注1]平成30年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)制度
このように、企業規模や業種によって退職金の有無に違いがありますので、「退職金は必ずもらえる」と決めつけず、自社の退職金制度についてしっかり調べることが大切です。
退職金制度の有無と同じく、退職金の支給方法も会社によって違いがあります。
細かな規定は会社ごとに異なりますが、大きく分けると「退職一時金制度」と「企業年金制度」の2つがあります。
退職一時金制度とは、退職時に一括で退職金が支払われる制度です。
支給金額は就業規則によってあらかじめ定められており、勤続年数や役職に応じた退職金を受け取れます。
一方の企業年金制度は、さらに「確定給付企業年金」と「確定拠出型年金」の2つに分かれています。
確定給付企業年金とは、退職金を一時金として受け取るのではなく、年金として分割受給できる制度です。
企業によっては退職一時金と確定給付企業年金のどちらかを自由に選べる仕組みになっています。
支給額が就業規則によってあらかじめ定められている退職一時金や確定給付企業年金とは異なり、運用状況によって支給額が変動するのが確定拠出型年金です。
企業が銀行などの金融機関に掛金を支払って運用し、最終的に支払われる年金は運用実績によって決まります。
掛金は全額企業が負担しますが、あらかじめ就業規則で定めている場合は、個人が掛金を上乗せすることも可能です。
民間企業の場合、退職金制度の内容は会社に一任されているため、支給の条件や支給額は企業によって大きく異なります。
そのため、一概に「○年勤続したら○円もらえる」と断定することは出来ませんが、統計によっておおよその退職金の相場を知ることができます。
ここでは、厚生労働省がまとめた平成30年就労条件総合調査の結果をもとに、退職金の相場をまとめてみました。
退職金はその企業に長く貢献した人ほど支給額が大きくなるのが一般的です。
ここでは、20年以上勤続した大学および大学院卒の退職金相場を、勤続年数ごとにまとめました。
勤続年数 | 退職金相場 |
20~24年 | 1,267万円 |
25~29年 | 1,395万円 |
30~34年 | 1,794万円 |
35年以上 | 2,173万円 |
勤続年数が20~29年まではそれほど大きな差はありませんが、30年を超えると約400万円と大幅にアップしています。
この結果から、多くの企業にとって勤続30年が1つの境界線になっていることが伺えます。
退職金相場は、企業に入社したときの最終学歴によっても左右されます。
学歴がどの程度退職金に影響するのかみてみましょう。
[※注2]
最終学歴 | 退職金相場 |
大学・大学院卒 | 2,173万円 |
高校卒 | 1,954万円 |
同じように35年以上勤めた場合でも、大学・大学院卒か高卒かによって200万円程度の差が出ています。
毎月の給与も大卒と高卒では開きがありますので、退職金にも相応の差が出るようです。
退職理由は経営悪化による人員整理や経営破綻による退職など、退職の理由が会社側にある「会社都合」と、いわゆる一身上の都合で自発的に退職する「自己都合」の2つに分かれます。
前者の場合、労働者側には働く意思があるのに会社側の責任によって退職せざるを得ない状況になることから、退職金が上乗せされるのが一般的です。
人員整理の場合、会社によっては優遇措置を設けた早期退職を募るケースもあり、その場合はさらに退職金がアップします。
実際、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に支給される退職金相場を退職理由別にチェックすると以下となります。
[※注2]
退職理由 | 退職金相場 |
会社都合 | 2,156万円 |
自己都合 | 1,519万円 |
早期優遇 | 2,326万円 |
自己都合と会社都合では600万円以上の差があるほか、早期優遇が適用されるとさらに170万円程度の退職金が上乗せされることがわかります。
このように、同じ会社でも勤続年数や最終学歴、退職理由によって退職金に大幅な違いが出ることを覚えておきましょう。[※注2]
[注2]平成30年就労条件総合調査 退職給付(一時金・年金)の支給実態
退職金の計算方法は、大きく分けて4つあります。
どの計算方法を採用しているかは企業によって異なりますので、自分の退職金を知りたい場合は就業規則で確かめてみましょう。
以下では4つの計算方法をわかりやすくまとめました。
定額制とは、基本給や会社への貢献度などに関係なく、勤続年数によって一定の退職金が支払われる方法です。
この場合、特に計算は必要なく「勤続年数○年:○万円」といった風に勤続年数ごとの退職金額が就業規則に記載されています。
基本給連動型とは、退職時の基本給をベースに勤続年数や退職理由などを加味して計算する方法です。
基本給は会社ごとに統一されているので、どのくらい長く働いたか、どんな理由で退職したかによって個人の退職金が変動します。
なお、計算式では以下のように、勤続年数によって変動する支給率と、退職理由ごとに設定された退職事由係数を掛けて計算します。
たとえば勤続年数20年、基本給200万円の人が自己都合で退職したとします。
勤続年数20年の支給率が0.9、自己都合退職の係数を0.7と設定している会社の場合、退職金は200万円×0.9×0.7=126万円となります。
別テーブル制とは、勤続年数に応じて定められた基礎金額に、役職や等級ごとに設定された係数と退職事由係数を掛けて計算する方法です。
計算式は以下となります。
たとえば勤続年数15年の基礎金額が150万円で、自己都合退職の係数が0.7、一般社員の等級係数が0.7だった場合、退職金額は150万円×0.7×0.7=73万5千円となります。
一方、勤続年数と退職理由は同じでも課長職(係数1.0)に就いていた場合、退職金は150万円×0.7×1.0=105万円となります。
ポイント制とは、従業員に付与されたポイントに応じて退職金を計算する方法です。
ポイント付与の対象や内容は企業によって異なりますが、たとえば勤続年数1年ごとに10ポイント、課長になったら30ポイントなど、会社に対する貢献度や評価によって定められているケースがほとんどです。
これらのポイントには単価が設定されており、退職金自由係数と合わせて退職金を計算することとなります。
例えば退職時にポイントが300ポイント貯まっていて、ポイント単価が1万円、自己退職事由係数が0.7だった場合、退職金は300ポイント×1万円×0.7=210万円となります。
退職金は離職後の生活を支える大切な資金ですので、金額によってその後の人生計画が大きく変わることもあります。
いざ支給されてから「想像していた金額と違う!」と慌てることがないよう、就業規則をしっかり調べて自分の退職金がどのくらいになるのかあらかじめ計算しておくことをおすすめします。